介護の現場では、「認知症の方との関わり方が難しい」と感じる瞬間が多いですよね。
「どう声をかければいいのか」「反応がなくて不安」など、日々の支援の中で戸惑うこともあると思います。
でも、認知症ケアの基本は“特別な技術”ではありません。
大切なのは「その人を知ること」、そして「安心できる関係をつくること」。
前回の記事「認知症とは?種類・症状・対応の基本をやさしく解説」では、中核症状とBPSD(行動・心理症状)の違いを学びました。
今回はさらに踏み込んで、“実際のかかわり方”のポイントを5つに分けてお伝えします。
1.安心と信頼を生む5つのポイント
1. その人の“バックボーン”を知る
認知症ケアの出発点は、「病気を見る」のではなく「人を見る」ことです。
その人の過去の経験や生活背景を知ると、言動の意味が見えてきます。
たとえば、元教師の方が職員に「これ、間違ってるよ」と指摘するのは、“人を導く立場”で生きてきた自分を保ちたい気持ちの表れかもしれません。
また、元農家の方が「外に行く」と頻繁に言われるのは、「畑の見回りをしなきゃ」という生活リズムが残っているのかもしれません。

利用者さんの昔の姿って、どうやって知ればいいんですか?

ご家族への聞き取りや、記録に残っている生活歴もヒントになるよ。
あと、利用者さんの口ぐせや好きな話題にも、その人らしさがにじみ出ているんだ。

過去を知ることは、利用者さんを深く理解するための地図づくりみたいね
バックボーンを知ることで、声かけの言葉も自然と変わります。
「認知症の人」ではなく、「○○さん」として向き合うことが、関わりの質を高める第一歩です。
2. 非言語コミュニケーションを意識する
言葉だけがコミュニケーションではありません。
認知症の方は、表情や声のトーン、姿勢など「非言語情報」から安心や不安を感じ取っています。
たとえば、急いで話しかけると、相手はその焦りを敏感に感じ取ります。
逆に、ゆっくりとした口調で、穏やかな笑顔で話すだけで、安心感が生まれます。

笑顔って本当に伝わりますよね。何も言わなくても、安心してもらえる気がします。

そうそう。声よりも先に表情が届くんだよ。焦っている時ほど、深呼吸して笑顔で話すことを意識してみよう。
非言語の力については、以前の記事でも詳しく紹介しています。
非言語コミュニケーションで伝わる“安心”の力
笑顔の効果!介護現場で信頼をつくる表情のコツ
小さな表情の変化や、視線の合わせ方ひとつで、相手の反応が変わる。
それが“心で伝えるケア”の原点です。
3. 環境を整える〜「情報の少なさ」が安心を生む〜
認知症の方にとって、環境はとても大きな要素です。
私たちが何気なく過ごしている空間でも、情報が多すぎると混乱の原因になります。
- 張り紙が多い
- テレビが常に大音量
- 物が多く視界がごちゃつく
こうした環境は、「何をすればいいのか」「今どこにいるのか」の判断を難しくしてしまいます。

私、良かれと思って案内をたくさん貼ってました…

気づけたのは素晴らしいことだよ。わかりやすさより、落ち着ける環境を優先してみよう。
人は慣れた場所や見慣れたものの中でこそ、安心できるんだ。
照明の明るさ、音の大きさ、家具の位置――。
小さな工夫が、認知症の方にとっての“安全”と“安心”を守ることにつながります。
4. 職員も「人的環境」の一部になる
環境とは「物理的なもの」だけではありません。

職員の態度や声のトーン、表情も、利用者さんにとっての“環境”の一部。

その通り。私たちの言葉や表情は、利用者さんの世界をつくっている。
だからこそ、焦らず、丁寧に、一貫した関わりを意識することが大事なんだよ。
どんなに設備が整っていても、職員が落ち着いていなければ、利用者さんも不安になります。
「自分自身が“安心の環境”になる」――それが、介護のプロとしての基本姿勢です。
5. BPSDがある方との関わり方 〜「困った行動」ではなく「心のサイン」〜
「帰る」「怒る」「拒否する」「暴言が出る」――。
こうした行動には、必ず理由があります。
中核症状に加えて、心理的・環境的な要因が重なって現れているのです。
悪い例
「また言ってるじゃないですか」
「もう寝る時間ですよ」
「ここは施設です、家じゃありません」
良い例
「そうなんですね、心配なんですね。」
「おうちのこと、気になりますよね。」
「一緒に探してみましょうか。」

「帰りたい」って言われたとき、つい「ここが施設ですよ」って言っちゃってました…

わかるよ。でも「帰りたい」は安心したいのサイン。
帰る場所=安心できる場所を求めているんだよ。だから、気持ちを受け止めて寄り添うことが大切なんだ。
BPSDを「困った行動」と捉えるか、「心のメッセージ」と捉えるかで、支援の方向性は大きく変わります。
2.認知症でも「人間らしさ」は変わらない
認知症という病気を正しく理解することは大切ですが、「病気であっても、その人は“人間”である」という視点を決して忘れてはいけません。
不安になったり、怒ったり、悲しくなったり、うれしくなったり――。
こうした感情は、認知症の方も、私たちと同じように感じています。

たしかに、きれいなお花を見て笑顔になったり、楽しい音楽で体を動かされたり…。
そういう反応って、“その人らしさ”が表れてますよね。

そうなんだよね。
認知症という病気があっても、心の動きはちゃんとある。
楽しいものを見れば笑顔になるし、嫌なことをされたら誰だって怒る。
人間としての本質は変わらないんだ。
だからこそ、「あの人は認知症だから何を言ってもわからない」「どうせ話しても通じない」――そんな考え方は絶対にしてはいけません。

理解することをあきらめるのではなく、“どうすれば伝わるか”を考える姿勢が大事。
人として尊重する気持ちが、信頼関係をつくる基礎なんだよ
この視点を持つだけで、対応の質がぐっと変わります。
「認知症ケア=特別なこと」ではなく、「人として向き合うこと」。
それが、本当の意味での“尊厳を守るケア”なのです。
3.まとめ
認知症ケアの本質は、「その人を知ること」から始まります。
言葉だけでなく、非言語のサインや環境、職員自身の関わり方――。
そのすべてが、“安心と信頼”を育てる要素です。
BPSDも「困らせる行動」ではなく、「心のサイン」。
怒る・帰る・拒否する――そのすべての行動の裏には、本人の思いや不安があります。
そして何より大切なのは、「病気ではなく人として向き合う」こと。
認知症であっても、“人間らしさ”は失われません。

大事なのは、症状ではなく人を見ること。
その人の世界に、そっと寄り添う気持ちを大切にしていきましょうね。

私たち職員が利用者さんにとっての安心の環境になれたら、きっと利用者さんも穏やかに過ごせますね。

今日から、“その人を知るケア”を意識してみます!
4.次回予告
次回は、まるが実際に経験したり見てきて感じた「認知症の対応事例」についてお届けします。
リアルな現場での“うまくいった対応”“失敗から学んだこと”を交えながら、さらに実践的に深掘りしていきます。


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