介護の現場で必ず登場するのが「移動・移乗」です。ベッド上で利用者さんのポジションを正すとき、ベッドから車椅子へ、車椅子からトイレへ、さらには歩行を支援する場面も日常的にあります。
この「移動・移乗」では、利用者さんの安全を守り、介助者の腰痛予防や負担軽減を実現するために「理由に基づいた介助」が求められます。
前回のブログで紹介したボディメカニクスも、この「移動・移乗」のなかで効果を発揮します。例えば「重心を近づける」「大きな筋肉を使う」といった基本動作は、利用者の安全性と介助者の体の守り方、どちらにも直結しています。
今回は、新人さんや中堅職員さんが特につまずきやすい「移動・移乗」について、なぜその方法をとるのか、どうすれば安全でスムーズになるのかを整理していきます。
具体的な声かけや動作の工夫もあわせて紹介しますので、ぜひ最後までお付き合いくださいね。
なぜ「移動・移乗」をするのか?

人は目的があるから移動します。仕事をするために家から会社へ行く、トイレで用を済ませるためにリビングから移動する、買い物のために近所のスーパーへ行くなど。介護現場でも同じで、ベッドから車椅子、車椅子からトイレや食堂への移動には必ず理由があります。
介助の基本は「安全と安心」、そして「残存機能を活かす」ことです。
利用者さんに恐怖心を与えず、安心して動作できるようにすることが第一。そのうえで「できる力」を活かすことで自立支援につながり、ADLの維持にもなります。

これから立ち上がりますね」「一緒に食堂まで歩きましょう」 といった声かけで安心感を持っていただけます。

他にもオススメの声掛けはありますか?

「今日はしっかり歩けていますね!」 と励ますことで達成感を高めることもできますよ。
移乗介助の流れとポイント
移乗介助は「安全」「安心」「効率性」が求められる介助です。流れを整理すると以下の4段階に分けられます。
①環境整備と準備
段取り8割。準備が整っていれば、その後の動作がスムーズになります。
- 車椅子のブレーキを確実にかける
- フットサポートを外すか上げる
- ベッドのサイドレールは必要に応じて外しておく
- 床の濡れや障害物を確認する

これらを怠ると事故のリスクが一気に高まります。

利用者さんの足にあった靴を選ぶことも大切よ。
②声かけ(説明)と同意
動作前には必ず「これから〇〇しますね」と説明し、同意を得てから介助を開始します。無言の介助は不安を与えるだけでなく、抵抗や思わぬ事故につながります。

「今から立ち上がりますがよろしいですか?」
「車椅子に移りますので一緒にやっていきましょう」
こんな感じの声かけは、大丈夫でしょうか?

とってもいいよ! 目線を合わせて声かけしたらばっちりだね。
③立ち上がり動作
立ち上がりのコツは、「利用者さんの身体を前傾させるように介助する」ことです。重心を足底に移すことで、足に体重をのせやすくなります。
介助者は膝や腰を安定させ、必要以上に「持ち上げない」意識を持ちます。利用者さんの残存能力を使うことで動作が自然になります。
介助者が利用者を上に「持ち上げよう」としてしまうこと。その結果、自分の腰を痛めたり、利用者さんが不安定になったりします。
④方向転換と着座
方向転換では、利用者の足の位置と重心移動を確認しながら行います。回転角度を小さくするほど安定性が増します。
着座時は「ドスン」とならないように最後まで支えることが重要です。勢いよく座ると腰椎圧迫骨折の原因にもなりかねません。
コツは「利用者さんの動作に合わせて介助者も重心を動かす」こと。お互いが自然にバランスを取れる動きになります。
歩行介助のポイント

歩行介助は、移乗介助に比べて転倒事故のリスクが大きい介助です。利用者さんの身体状況やその日の体調等を観察して、適切な介助をする必要があるため、新人さんや中堅職員さんが特につまずきやすいので、しっかり押さえましょう。

普段の利用者さんの様子をしっかり理解して介助しようね。
そして、「いつもと違う」ということを感じとることから…。

まずは普段の状態をよく観察しようと思います

「歩幅」「身体の傾き」「身体に痛いところはないか」「身体のふるえ」「表情(気力)」
介助者の立ち位置
基本は「弱い側・麻痺側」に立つこと。倒れそうになった際にリスクが高いのは麻痺側だからです。
ただし、利用者さんの状態によっては後方から支える、横に並んで歩くなどの工夫も必要です。

「脇の下を持って歩かせる」方法は避けましょう。歩きづらいだけでなく、膝折れ時に肩を痛めたり脱臼の危険もあります。
歩幅とペース
介助者が大股で歩くと、利用者さんが介助者のペースについていけず、バランスを崩してしまいます。利用者さんの歩幅・歩速に合わせることが安定につながります。
福祉用具の活用
杖や歩行器を正しく使うことで自立度を高め、安全に歩行することが可能となります。
杖の高さは「立位で腕を自然に下ろし、肘を軽く曲げた状態で握れる高さ」が目安です。

福祉用具を導入する時は、専門家に選んでもらうと安心ね。
介護職員は、日頃のチェックポイントを知っておくことが大切よ。

「利用者さんが使いづらそうにしているけど高さは大丈夫かな…」とか、「杖先のゴムは摩耗していないか」「車輪の動きが重くなっていないか」など、小さな異変に気づくことで事故を防ぐことにもつながるよ。
声かけ
「次に右足を出しましょう」「もう一歩で椅子ですよ」など、次の行動を具体的に伝えることで、混乱を防ぐことができます。

「困っている様子が見えたら、その場で声をかけ直す」 これが安心につながります。
よくある失敗と対策
ボディメカニクスに反した動きは介助者の腰痛の原因につながります。また、力に頼る介助行為は、不安定なものとなり転倒のリスクも高まります。
利用者さんの動きを観察して、介助者が動作に合わせる意識で行うようにします。
無言の介助は不安と事故のもとです。必ず説明と同意を取りましょう。
車椅子のブレーキ忘れや杖のゴム摩耗は事故につながります。点検と確認を徹底しましょう。
デイサービスと施設での違い
デイサービス
比較的自立度が高い利用者が多く、できることをご自身でおこなってもらうことが自立支援につながります。声かけ次第で「自分でできた」という成功体験が増えることも少なくありません。

家に帰ってからも歩行をする機会が多いので、歩行できる方はなるべく歩行してもらっているよ。また「自分で歩く!」という思いの利用者さんが多いので、その方に合わせて見守りや介助を行ってるよ。
施設
身体機能が低下した方が多く、介助の比重が高くなります。ここではボディメカニクスの活用が不可欠。二人介助やリフトなどの福祉用具も活用し、無理のない介助を徹底することが事故防止になります。

寝たきりの利用者さんにも、利用者さんのペースがあります。
力まかせや介助者本位の介助にならないよう十分注意しましょう。
まとめ
移動・移乗は介護現場で欠かせない基本動作ですが、「なんとなく」で行うと利用者さんの不安や事故、介助者の腰痛につながります。大切なのは「なぜ、この方法をとるのか」と理由や根拠を意識しながら介助を行うこと。環境整備、声かけ、重心移動の工夫など、一つひとつに意味があります。
新人さんや中堅職員さんにとっては「根拠を理解しながら実践する」ことが技術向上への近道です。慣れるほど形だけになりやすい動作ですが、今一度一つひとつを丁寧に振り返ることが、安全で安心できる介護につながります。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました〜!
次回は「衣服の着脱介助」について解説していきます。

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